手の手術 (後編)

手の手術(前編)のつづき)

 トイレ行っとこかな~など考えてるうちに、9時半過ぎくらいに

もう別のナースがやってきて、手術室のある地下のフロアまで移動することになった。

手術着の上からバスローブを羽織って、車輪つきの椅子に座り、

歩けるのに、と思ったが、ナースは椅子を押して連れて行ってくれた。

待機所に着くと、別の年配の女性も私と同じように右手に包帯を巻いて、

待機していたが、足を見ると真っ赤なネイルが施してあった。

と、同時に、私は自分がパンプスを履いたままであることに気が付いた。

裸足であるべきだったのか、と思ったが、すぐそばにトイレがあり、

用を足せたので、靴を履いていてよかったと思った。

時々手術エリアからドクターが出てきて、クロックスみたいな

靴をはいたままだし、患者を待機所まで運んでくるナースはスニーカーなので、

きっとそのへんあいまいなんだろうと思った。


 年配の女性は先に手術エリアに運ばれて行き、その後、

同じ部屋にいた黒人女性もまた、私と同じように右手に包帯を巻いて

待機所に現れた。ちなみにその手には真っ青なネイルがしてあった。適当か。

 その後、手術エリアから、立て続けに女性が二人、右手をぐるぐる巻きの

状態で出てきて、腕が真っ赤なので、私はむくみか腫れているのか、自分も

こうなるのかと恐怖心を煽られた。

そしてまた、今日はガングリオン手術祭りなのかと思った。

(もちろんほかの疾患かもしれないけど)


 ついに私の番がやってきた。男性のノリのいい感じのナースと

見習い的な女性のナースがやってきて、手術室まで運んでくれた。

10時半頃だったと思う。英語を話してくれたが、

早口で時々よくわからなかった。男性ナースにも「ベルギーで働いてるの?」と

聞かれたが、適当に流しておいた。

手術台に寝転がり、左腕に点滴用の針を刺され、右手の甲には麻酔用の針を刺された。

どこを切るのか聞かれ、この膨らんでるところだと言うと、ボールペンで丸く

囲った。私の場合、明らかに膨らんでいたのでわかりやすかったけど、

見えない人の場合はどうしたのだろう。

右腕に太いゴムバンドをぐるぐる巻きにされ、腕の付け根を縛られて

血流を止められた。

太った女性の麻酔医がやってきて、淡々と麻酔を施した。

熱い感じがするがそれが普通だと言われ、確かに熱く感じた。

男性ナースは赤い消毒液を私の腕全体に塗りたくり、私が恐怖を

感じた赤い腕はこの消毒液のためであったことが判明。

シートで患部の手術が見られないように隠され、

しばらくして整形外科のドクターと、補助の研修医みたいな女医がやってきた。

手術室にあった時計で確認すると、執刀は10時50分くらいから始まった。

なんだかすごく手のひらが熱く感じて、そう伝えると、それが普通だと

言われた。

何かされているのはわかるが、痛みはない。ドクターたちも黙々と手術を進めた。

腕の付け根を縛られてるのが一番つらくて、早く終われ~と念じていた。

手術は11時10分くらいに終了し、

ドクターたちは早々に引き上げ、

男性ナースが起き上がり方などを説明してくれ、

上体を起こすとめまいがした。

男性ナースは私にパンプスをはかせてくれたが、

やっぱり裸足であるべきだったかと思った。

なんとか椅子に腰かけ、

リカバリー室へ運んでもらった。

しばらくめまいとなぜか体の震えが止まらなかった。

ドクターがとりあえず様子を見に来てくれて、

術後の説明をしてくれた。痛み止めの処方と、

来週ギプスの交換をするということだった。

5分おきくらいに血圧を測定したと思う。

20分ほどしてから部屋に戻った。

手術エリアから出た待機所には別の男性患者二人ほどがいたが、

やはり全員裸足だった。


 部屋ではナースがコーヒーとワッフルをくれて、

少し元気を回復。

別のナースがやってきて、点滴をはずし、処方箋と次回の予約時間を書いた紙、

かかりつけ医あての手紙、腕を釣るバンドをくれた。

夫はこの日休みを取ってくれて、午前中で幼稚園の終わる息子を迎えに行き、

その後病院まで来てくれた。

帰り際に、入浴のことについて聞くのを忘れたので、

ナース室に行って、一人のナースに聞くと、

英語がそれほど話せないようで、

夫にオランダ語が話せるかと聞いた。

これはよくあることで、確かに、見た感じ私よりも夫のほうが

話せそうに見えるが、そんなことはないのだよ。皆さん。

入浴は今日はだめで、明日からカバーをして入るように、

となんとか説明してくれた。

結局午後1時過ぎに病院を後にしたのであった。


処方箋を見ると、

イブプロフェン600 mg 30錠 1日3回

パラセタモール(アセトアミノフェン)1g 30錠 1日4回

と処方されており、

後で夫が薬局へ行ってくれたが、

まずイブプロフェンを飲んで、効かなければ

合間にアセトアミノフェンを飲むということであった。

しかし、これ用量多すぎやしませんか。

そんなに痛くなるのか?


 いつも頭痛や生理痛のとき、日本から持ってきている

イブプロフェン150 mgのジェルカプセルで

事足りているので、錠剤を

半分に切って飲むことにした。

どっちみち、こちらの錠剤は大きくて私には飲みにくいのである。


 手術当日はズキズキと痛みがしたが、昨日、今日と段々とましになってきた。

ただ、真っ赤な消毒液は拭いても拭いてもまだとれない。